面接対策は模範解答の暗記より、採用担当者の意図を理解すること
――今回の新著は「なぜ当社に応募したのですか?」から「このボールペンを10万円で買ってもらう方法がありますか?」まで、バリエーションに富んだ53個の質問例があり、その質問をする面接担当者の意図やねらいを解説する仕組みになっています。「意図やねらい」に着目した本づくりの理由はなんですか?

第一には、「なぜ面接担当者が、そんなことを聞くのかわからず苦労した」という出版社の担当者の体験談に触発されたことが理由です。面接対策として流布されている「こう聞かれたらこう答える」式のノウハウから脱皮して、転職希望者が自分なりに答えられる方法を伝えたいと思いました。
よく「面接質問への回答には正解がない」と言われますが、それは違います。このことは、ほかのキャリアカウンセラーの方もおっしゃっていますが、面接質問はすべて採用選考のためのもの。採用側が自社とのマッチングを問うために発しているものです。ですから、正解は「私はこの会社にマッチします」と伝えられる回答になります。でも、採用担当者が自分の何を気にしているのか……その質問の意図やねらいがわからないと、正しい答えを探すことができず、ピントの外れた応答をしてしまいがちです。
――出てくる質問はバリエーションに富んでおり、面接でどんな変化球を投げられても打ち返すことができそうです。こうした質問例が豊富に出てくる、先生のバックボーンを教えてください。
日本で転職が急速に一般化してきたのは1970年代で、75年には『明るい転職』という言葉が流行語になり、80年には『とらばーゆ』が創刊されて転職のイメージが変わりました。その頃から現在のリクルートという会社の外部協力者となって、複数の求人情報誌の編集企画や記事制作などに携わってきたのですが、当時から転職希望者である読者の悩みの上位を占めるのは「面接で何を聞かれるのか?」「どう答えればいいのか?」という内容でした。
まだ転職ノウハウというコンテンツも未確立な時代でしたが、編集部では素晴らしく優秀な方々が読者の声に応えて役立つ情報を届けようと模索していたし、採用現場という雄弁な情報源がありました。そして、転職者に向けた想定問答型の「こう聞かれたらこう答える」というノウハウのプロトタイプができあがった。下敷きには新規学卒者の就職活動マニュアルがあったように思います。記事は高いニーズがあったので反響も大きく、瞬く間に面接対策のスタンダードになりました。
けれど、転職は就職とは違います。求人企業の大多数は定期採用などしていない中小企業ですし、応募者は年齢も職歴も、積んできたキャリアの内容も千差万別です。巨大企業から中小中堅、個人事業所まで、また老舗企業からベンチャーまで、多様な業界の採用現場で担当者の生の声を聞き続けてきましたが、それぞれ応募者に求めるものも考え方も違います。だから、面接の質問の意図も、正しい答えも変わる。でも記事としてまとめるには、最大公約数としての想定問答例をつくるしかないというのも現実でした。
――モデル的な応答例だけでは不十分だったわけですね?
しばらくすると採用担当者から「似たようなことを言う応募者が増えた」という話を聞くようになりました。応答例を模範解答だと思って、丸暗記するような転職者が現れはじめたのです。丸暗記トークがミスアンサーにつながる危険も表面化してきた。そこで次のステップとして出て来たのが、ケース別の応答例です。職種やキャリアや応募先業界などの事例を設定し、同じ質問でも回答が異なることを見せました。これは、現在も面接対策の主流になっていると思います。
これらの経験を集大成したのが、既刊の『採用される転職者のための面接トーク術』という本です。求人企業をクライアントにもつ情報誌とは違い、書籍では解説も注意ポイントも転職者の立場で書けるのが嬉しかった。デザイナーに「これ以上、文字を増やすな」と言われるほどしつこく書き込みました。その分、懇切ていねいな本になったと自負していますし、役立つという評価もいただいています。
けれど、読者層によっては情報量が多すぎて「しつこい」そうです(笑)。質問の意図さえわかれば自分なりに対応できる、と。実際のところ、いくら本を分厚くしたところで、全ケースの応答例を網羅することは不可能です。質問の裏にある「採用側の本音」を知っていただき、自分なりの正しい答えを見つけてもらえばいいのだと考え、思い切って焦点を絞ることにしたわけです。シンプルな分、読みやすい本になりました。(次ページへ続く)



